2011年3月20日日曜日

アスリートにおける大転子拘縮の問題


スポーツメディシン(ブックハウスHD)に2001年に紹介した「大転子拘縮症候群」について書いてみたいと思います。


そもそも大転子拘縮とは何か? 

 大転子周囲に付着する組織が互いに滑らなくなる状態をいいます。互いに緊張を伝達しあうため、股関節の運動域を減少させます。

 たとえば歩行において、左の股関節に大転子拘縮があるとします。そうすると左の股関節伸展制限を補うため、歩行中には左の骨盤を後方に引きながら歩くことになります。

 ランニング゙でも同様に左の骨盤を後方に引きながら走ることになり、股関節のパワーを有効に使えなくなってしまいます。長距離選手の場合は、大腿外側の筋疲労が起こりやすく、レース後半に歩幅を維持できなくなることになります。

 今回は、主にランナーの大転子拘縮の問題点と解消法をまとめることにします。


大転子拘縮の原因は? 

 大転子は股関節の外側にあって突出しています。このため側臥位での睡眠では長時間にわたって圧迫にさらされ、その周辺の組織が正常な滑走性を失ってしまいます。

 その結果として、大転子周辺に付着する
 ・大殿筋、中殿筋、小殿筋
 ・大腿筋膜張筋
 ・腸脛靭帯
 ・外側広筋
などが互いに独立した収縮ができなくなってしまいます。

 さらに、これらの上には皮下脂肪と皮膚があって、これらも筋肉の滑りを邪魔することになります。

 性差・体型 大転子拘縮は一般に女性によく見られます。皮下脂肪の滑走不全は、殿部の脂肪のかたまりの原因にもなります。その原因は、おそらく女性のほうが大転子が外側に突出しており、側臥位での荷重量が大きいためと考えられます。体重が重いほど、そして皮下脂肪が厚いほど子の滑走不全が起こりやすくなると推測されます。ただし、男性に起こらないわけではなく、男性にも高頻度に見られます。
 

 睡眠との関係
 薄めの敷布団は、背臥位では脊椎アライメントを整え、骨盤の対称性を取り戻すためにとても良い環境といえます。ところが側臥位では、通常股関節屈曲位で大転子が持続的に圧迫されるので、股関節屈曲位の状態で大転子拘縮が進行します。つまり、股関節伸展に抵抗するような大転子周囲の軟部組織の緊張が生じるわけです。

 比較的軟らかく、圧の分散に優れた敷布団やマットレスは、大転子拘縮の予防には有効と推測されます。また、比較的軽い布団で寝返りを繰り返す方が、拘縮を作りにくいと考えられます。寒い部屋で、重い布団にくるまり、ほとんど寝返りもせずに寝ているのが問題なのではないでしょうか?
 欧米では、セントラルヒーティングが普及していますので、部屋の温度を一定に保って就寝します。このため、冬でも特別重い敷布団を使う必要がなく、比較的自由に寝返りを打つことができます。断熱性に問題があり、低い室温での睡眠はもしかしたら一つの危険因子かもしれません。
 

 大転子拘縮がもたらす問題とは?

(1)膝への影響
 大転子拘縮が起こるとまず間違いなく腸脛靭帯や外側広筋の緊張が強くなります。さらに、大殿筋や中殿筋の緊張を伝えることになるので、必要のないタイミングで外側広筋の収縮が起こる場合もあります。その結果、腸脛靱帯炎や膝蓋大腿関節障害など、膝に問題が生じやすくなります。

 逆に言うと、膝周辺に痛みが生じたとき、必ず大転子拘縮の有無を確認する必要があります。それを排除しない限り、痛みのメカニズムは解消されません。


(2)腰椎・骨盤への影響
 左股関節に大転子拘縮があると、骨盤を左に回旋しながら運動することになります。その結果、腰椎にも異常な回線ストレスが加わり、腰痛の原因となることがあります。

 もう一つ、左股関節の伸展が制限されると、それを補うため、左の寛骨が前傾します。つまり骨盤のゆがみをもたらすわけです。

 さらに厄介なことに、左の大殿筋の収縮が、正常に仙腸関節を介して反対側の胸腰筋膜に伝達されなくなってしまいます。すなわち、左大殿筋の収縮が、同側の胸腰筋膜や同側の拮抗筋に伝達されることになります。この時、もしも反対側の大殿筋の緊張が正常に仙腸関節をまたいで伝達されるとすれば、仙骨は常に右に引かれることになります。徐々に仙骨は左に傾斜し、尾骨は右に偏移して、仙腸関節にずれが生じてしまいます。

 すなわち、腰痛や骨盤痛、仙腸関節痛の治療においても大転子拘縮の有無は必ず確認しなければなりません。


大転子拘縮の解消法とは?

 大転子拘縮がいったん発生すると、運動やストレッチは解消できません。また、寝具の改善は、将来の大転子拘縮の発生や悪化の予防には効果的ですが、いったん起こってしまった大転子拘縮にはそれほど効果をもたらすものにはなりえません。

 大転子拘縮を解消させるには、組織間を滑らせることが必要です。それには以下のような手順が望ましいと思われます。

①リアライン
 骨盤に非対称性がある場合は、仙骨を正中に、そして両寛骨を左右対称な位置に矯正します。それによって、骨盤周囲の筋の緊張がある程度軽減されます。
 
 次に、股関節のリアラインを行います。背臥位で股関節を内・外旋させると、大腿骨頭が臼蓋内で前後に移動します。その結果、股関節周囲の筋の緊張がある程度は軽減されます。

 軟部組織リリース
 皮下脂肪と筋膜・腸脛靭帯との間を滑らせるため、皮下脂肪をつまんで、その深層の組織からリリースします。つまんだ時に痛みがあれば、皮下脂肪の滑走性が悪いことを意味します。リリースが完成すると、皮下脂肪をつまんでもまったく痛みがない状態になります。

 筋間リリース
 次に、股関節の伸展と屈曲の両方に関与する中殿筋について、前方では大腿筋膜張筋、後方では梨状筋との間で滑走性を改善します。

 股関節伸展では中殿筋と大腿筋膜張筋間の緊張の伝達を解消、股関節屈曲では中殿筋と梨状筋間の緊張の伝達を解消します。これにより、中殿筋は伸展・屈曲に抵抗しない筋として、本来の役割を果たすことができるようになります。

 中殿筋が解放されたら、大殿筋と外側広筋、外側広筋と大腿筋膜張筋など、互いに隣接する筋が緊張を伝達していないことを確認し、必要に応じてリリースを行います。


②スタビライズ
  上記のような軟部組織のリリースが進むと、股関節周囲の筋の単独収縮を行いやすくなります。股関節伸展機能も改善し、歩行やランニングにおいて骨盤の代償を使わなくても股関節伸展がスムーズにできるようになります。

 スタビライズの段階では、このような単独収縮、単関節運動を徹底的に鍛え、せっかく得られた異常な緊張伝達のない状態での筋機能を最大限に高めます。  





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